アレスは夜道を駆ける
(もしかしたら、)
いや、愛じゃない。ただの『きれいなものを汚したい』という子どもじみた衝動だ。
(いや、でも、ただの、だが、しかし、)
自分が彼女に反発する理由、それは、血のせいでもなく、力のせいでもなく、ああそれは、最初から反発などという感情でもなかったのかもしれない――
(自分のものにしたかっただけ……?)
あの小娘に振り向いてもらいたくて。光り輝く馬鹿女の気を惹いて、嫌われててもいい、皆の人気者の彼女を手に入れたくて、彼女の生意気面を俺が屈伏させて青臭い理想論を壊してみたくて! 美しいアテナの美しい上っ面を剥がしてその中身を暴いてやりたくて!
このアレスが! ああ、このアレスがこんなにも焦らされている!
愛などではない。恋でもない。ただの肥大した支配欲なのだ。しかしその欲求は、彼が求めて病まないあの美の女神への想いとなぜかよく似ているのではないだろうか?
「認めん」
口に出してまとまらない思考を抹消しようとする。その一言は意外に鋭く響き、そして生ぬるい息と共に夜の闇に霧散した。
「認めん」
男は己に刻みつけるように、言の刃を放ち続けた。
「俺は、あの女が、大っ嫌いだ」
足早な歩調はますます加速して、彼が後ろを振り返る頃には白い要塞はもう見えなくなっていた。
彼の強烈な所有欲と独占欲は底無しだった。
舌に残る苦味は、まだ引きそうにない。

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