欠損の音 - 1/3

ヘパイストス
何でも作れる鍛冶の神。生まれてすぐ母ヘラに捨てられたり、身体が不自由だったり、妻アプロディテに不倫されたり、とてつもなく波乱万丈の神である。
エロス
愛の神。アプロディテの息子と言われている。幼い子どもの姿をしている。
ヘルメス
この伝令神は商売の神でもあるので、いろんな神々相手に商いを展開している。子守りが得意。
メドゥーサ
アテナを護る盾。

カチャン。

カチャン。

「ちょっと、顔が近いわよ」

「黙りなさい気が散るでしょうが」

「もう、やさしくしてよ……。あ、ねぇ、外から声が聞こえるわ。子どもの声」

「……」

『それ』を抱いていた手を止め、男は顔をあげてため息をついて声の主を出迎えに行った。

カチャン。

カチャン。

***

「ヘパちゃーん! エロスが来ましたよー!」

「はいはい」

声を張り上げて、作りものの足を軋ませながらゆっくりゆっくり歩き、程なく玄関に辿り着く。物々しく分厚いスライド式扉を開けると、童子は気だるい雰囲気で顔を出したヘパイストスを見るやいなや目をキラキラさせながら飛びついた。「きゃー! ヘパちゃん! あのね、ヘルメスと来たの! 連れてきてもらったの!」

そしてこの子の後ろでは、夕日に照らされた少年が顔の前で手を合わせて立っている。

「ごめん、説明しだしたら長いんだよ」

元々ヘパイストスには人間嫌いの節があるが、なついてくる子どもを突き離す程の情無しでもない。その無骨な手でエロスの柔らかな金の髪をわしゃわしゃと撫でてやり、軽くため息をついて言った。

「上がりなさい」

カチャン。カチャン。