
ペルセポネ
大神ゼウスと大地母神デメテルの娘、そして冥王ハデスの妻。冬以外の季節は地上で母と暮らしている。
最近ペルセポネは夢を見る。同じ夢を、何度も、何度も。
舞台はどうやら冥界らしい。静謐な暗闇が辺りを覆う地下の世界で、彼女はいつも一人きりで立っていて……いつも夢は決まってそのシーンから始まるのだ。
(ハデス様はどこだろう)
夫を探すために彼女はさまよい歩き出す。しかしどこまで行っても真っ暗闇なので、前に進んでいるのか右に左にそれているのか、はたまた後ろに退いているのかわからなくなってくる。確かな感覚は靴をはく足の裏から伝わる湿った土の感触のみ。じゅるっ、じゅるっと、耳につく足音を響かせて。
そのうちに、声が聞こえる。低く嗄れた声が。
“ ”
ペルセポネは、今度はその声の方へ進む。
ハデスのものではない。が、進む。いつの間にか地面は下り坂になっている。深淵を、降りていく。
“ ”
彼女を渇望する声は徐々に大きく響いてくる。誰が呼んでいるのか?何故呼ばれているのか?そんな事考える由もない。ただ彼女は降りていく。
“ ”
ペルセポネは声の元に辿り着く。
──そこで目は覚めるのだ。
「……あ」
うたた寝してしまったらしい。自室の椅子から落ちかけて急速に意識が覚醒した。開けっ放した窓からは少し傾いた日差しが眩しい。
(いけない、あの人が帰ってしまう)
ここ数日このエレウシス神殿に宿を取っている客人は、今日の夕方前にはここを出ると言っていた。

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