
アポロン
ギリシア神話の理性担当。

ディオニュソス
ギリシア神話の狂乱担当。
「ディオニュソスはいるか!
おい、ディオニュソス!
ディオ!
ディオニュソスくーん!
阿呆の貧乏神!
……なんだ、いないのか。
と見せかけて隠れてヒトんちの食物庫で食い物貪ってんじゃねーぞ!
…………おい、マジでいないのか。
……参ったな。貯蔵してる酒が先日の地震で全滅したんだが。保管の仕方が悪かったもので、甕が全て盛大に割れてしまった。入ったばかりの新人バイトに倉庫整理任せてたのが悪いんだが、それにしたって、こう、もうちょっとさぁ、そういう不測の事態が起きるのも想定してさぁ……。ああ、だから最近の若い奴はトロくて嫌いなんだ!
おーい! 酒の神ー! 葡萄酒を精製してもらいたいんだがー!
……
…………携帯も繋がらねーし。
いらん時に顔出すくせに、必要な時には決まって寄らん。このままでは客人をもてなせないではないか、この世界に名の轟くデルポイのアポロンともあろう俺が! ギリシアでは、来客には酒を出して歓迎の気持ちを表すのが常識だからな。人間にはな、例えそれが一国の王だろうがエジプトの使節だろうが気ィ遣わなくていいんだよ、でもさぁひとによったらさあ、『すみませーん今お酒切らしてましてぇ、水でいいっスかぁ?』なんて、口が裂けても言えん! やった瞬間デルポイの株大暴落! 『ちょっと奥さんアポロンさんってあんなに大豪邸に住んでらっしゃるのにケチくさいのよ~』って噂があっという間に全土に駆け巡る! おお恐ろしい!
ディオちゃ~ん、オヤツですよ~!
………
アイスキャンディー溶けますよ~!
………
……ちっ、これはマジで不在オチか。『かくれんぼしてたよ☆』なんか言って出てきたらはったおしてやる! この俺に手間掛けさせやがって! 崖からヒモなしバンジーか、奴の長い髪を木に縛って野犬に襲わせるとか、筋肉を……おっといかんいかん俺の隠れた性癖が口をついて出てしまった! 俺としたことが! それにディオニュソスは神族だからリンチのしがいがないじゃないか! 死なないのがわかってるから!
それにしても、嗚呼、人体の構造は美しい。ヒトの身体だけではない、この世の生物の身体はすべて美しい。はあぁ、身ぐるみ剥いで各パーツを……だからいかんいかんいかんいかん! こんな独り言を聞かれるとまた変態扱いされる! 俺は変態じゃないのに!!
……何だったっけ。
……あ、酒だ。
俺自身は酒はあまりたしなまないんだがなー。俺が酒を呑んだ次の日、アルテミスが口も訊いてくれなきゃメールも返してくれないし。あのアレスの馬鹿に『まあ、アレだな、お前も貯まってンだよな、俺で良ければいつでも付き合うから、な』ってすんげー可哀想な奴を見る目で励まされるし、誰だったか、アテナだったかな、『<何事も程々が肝心>』とかなんとか書いたプレートを寄越して目につくところにに飾れとか。んでヘルメスには胡散臭い漢方売られるし……。ウ、コン?だったっけ? 気味悪ィから放置してるけど。なーんかあいつら全員医術の神たる俺を見くびってる雰囲気だったんだよなー。俺酒の席でなんかやったかなー。普段と変わらないと思うんだが。
あ、そうだ! 思い出した! ヘルメスから酒を買いつければいいじゃないか!
……いやダメだダメだ! アイツ最近マージンめちゃくちゃ取るんだった! 暴利貪る悪徳商社め!『今なら洗剤セットと舞台鑑賞券もつけますよ』とか何とか言ってお得感装って丸め込もうとするがな、俺は洗濯用洗剤は蛍光料無しでハーブの香りがするタイプで食器洗い用洗剤は手肌に優しいタイプと決めてるし、舞台鑑賞券なんか、ほらそれこそディオニュソスに言えばタダじゃねーか! やっぱりディオニュソスを呼んだ方がいい! あの悪餓鬼の手には引っ掛からんぞ! こらディオニュソス! なんで肝心な時にいない!
畜生め、疲れてきた。
それにしても便利な力を持ってやがる。酒を生み出す能力なんて。
正確に言うと、『植物の成長に干渉する能力』か。大地から吸い上げられる養分を計算して、枯らしたり熟したり自由自在。葡萄酒もその力の応用、か。デメテル様の『植物の種に発芽する力を与える能力』やペルセポネの『植物に色素を与える能力』と似ているな。生産的な力を持つ奴らには、素直に憧れる。俺といえば『予言能力』に『生態環境のバランスを崩す能力』だもんなぁ。細菌とかウイルスとかを操作して、生物を大量に殺す役目。だから親父にバイオテロ隊長とか菌保有者とか妙なアダ名つけられるんだよなぁ。なんか、俺に似合わず湿っぽい力だなぁ。もうちょいカッコいいの、伯父貴みたいな『大地を揺らす力』とか親父みたいな『電気を操る力』とか、そんな……。
いや、いかんいかん! 卑屈になってどうする! この荘厳な神殿を見よアポロン! ギリシア中から富を集めたこのデルポイを! 称賛の目、歓喜の目、我を求め畏れる目を! そうだアポロンお前は今のままで十分に愛され敬われている! 胸を張れ、顔を上げろ、誇り高きレトの子よ!
それはそうと、酒だ!
ああくそっ、いないならいないと返事しろディオニュソス!」
「いないよ!」
「………………いたじゃねーの……」
「呼ばれたら逃げたくなる性分なので今まで影から君の盛大な独り言をずっと拝聴してましたん」
「おまッ……! ああもう、酒! いいから酒を持ってこい!」
「まあっなんて横暴な物言いなんでしょう! 『ディオニュソス様ミミズやオケラやアメンボの如く哀れな僕に御神酒を恵んで下さいませ』って土下座して頼んでくるならわけたげる。てかさーひとから物を貰う態度がなってないんだよ! 俺ァお前の下僕じゃないんだっつの! ナメんな!」
「『ナメんな』じゃねぇ! 許可もしてねーのにひとんちで食うだけ食って遊んで寝てぐうたらしてるお前が言える立場か! いいから酒を用意しろ言うことを聞かないと俺の趣味で半殺しにするからな! 具体的には皮を剥ぐからな!」
「あーもう君の心の狭さにはウンザリだ! こんなに広い『荘厳な神殿』とやらを持っている天下のアポロン様の度量よ! 『十分に愛され敬われている』だって? はっ! 人間達は騙されている! 情報操作で騙されている! 自分達の崇める神がこんな横暴でしみったれた男だと知ればきっと彼らは悟りを開き『あ、もういらない』って君に三行半を突きつけるだろうに! 告発されてもおかしくないような詐欺行為で金儲けしてるし自分大好きだし性癖おかしいし酒癖悪いし酒呑んでなくても性格悪いしストーカーだし!」
「黙れ黙れ黙れ! 詐欺とはなんだ詐欺とは! 我が神託事業を馬鹿にするな! 金儲け!? 慈善事業の一環で行ってたら人間が有り難がっていつの間にか金や供物を持ち寄りはじめただけだ!」
「その割にはカネに固執するよね!」
「利益を最大限に追求しているまでだ! 我がギリシアの国土の貧しさを憂いたまえ! 特にこのデルポイを! ここが発展するためには第三次産業で勝負するしかないんだよ! つまりサービス業! 観光ビジネス! 外貨で稼ぐ! 生き残るのに必死なんだぞ!」
「それ以外には反論無しかよ!」
「今考えてたところだ!」
「アイスキャンディーどこよ!?」
「冷凍庫だ!」
「俺グレープ味!」
「俺オレンジ!」
「取ってくる!」
「コラ走るな!
……アイスは食べた後喉渇くからなぁ……飲み物も持ってくるかなアイツ……
……飲み物……? あれ、なんか忘れてるような……
ま、いっか」

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