『メディア/イアソン』観劇しました

今期の覇権殿堂入り・いつまでたっても大人気コンテンツ・ゆりかごから墓場まで俺達を楽しませてくれる古代ギリシア。そのギリシア悲劇の新作が上演されるってんで、観に行きました。

アポロニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』とエウリピデスの悲劇『メデイア』を繋いでイアソンとメディアの馴れ初めから恋愛そして破綻を描くどうあがいても地獄という作品です。私はこの物語のことを知った上で観に行ったのですが、知らない状態で観劇した方(出演俳優のファンの方とか……そういうとっかかりで来た方……)がどんな精神状態になってしまったかとても心配です。

ここから先はネタバレだ!

感想です。

絶望の到来が想像以上に早かった。あんなんあかんわ! 秒で察するわ!! いや、何もサーチせずにノーガードで臨んだんですが、メディアに殺害された子ども視点で劇が進むというのが盲点でした。無条件に親を信頼している幼児ィ~~!! 最大の被害者ァ~~~~!!!!

作品通じて子供を保護する立場である大人に追い出されたり殺意持たれたり実際に殺されたりする子どもの多いこと。子ども達はこんな仕打ちを受けるだなんて思いもよらず、ただ必死に逃げて、生きていくんだけど、そんな子どもも大人になって変わってしまうの……。イアソン良かったです。涙をにじませながら故郷を離れた臆病な16歳が、旅をして成功体験を得て人が変わっていってしまう。いや、臆病なところは変わらず、欲が深くなっていく。彼は彼なりに、守るべきものを守るために強くなろうとしたんだと思う。金羊毛を手に入れたから、次はこれ、次はこれ、と。大人になるって、自分の立場が変わって見える景色も変わる。彼は非力だったからこそ、富や権力を政治的駆け引き手に入れて自分の子どもを守ろうとしたんでしょうね。

ただぁ~!

いやアカンやろメディアの気持ち置いてけぼりなのアカンやろヒドいやろ。めっちゃギルティ。めっっっっっちゃギルティ。言うなれば、若い頃に知り合って子ども作った女性を2号扱いして、自分が家柄良くて若い女と結婚するのを認めなさい、好意的に捉えなさいって彼女に迫ってるってことだから。ヒィィイ~~ギルティ!!

あ、今私霜降り明星粗品の一人賛否好きなんですよね。皆見て。特にSNS中毒なら中毒なほど面白いので。粗品のYOUTUBEでにあるので。

メディアも良かったですね。気品の中に情熱が見え隠れする素晴らしいメディアでした。乳母が愛おしそうに編んだ三つ編み、約束された人生、退屈な日常。そんな中やってきた旅人イアソンに恋の炎が燃え、三つ編みを切り落として駆け落ちし、そして12年後、落人として厳しい人生を歩みそしてイアソンの裏切りに遭いザンバラ髪に変貌して唸り声をあげる女。エウリピデス『メデイア』の脚本は全4幕中の4幕から始まるので終盤に仕込まれてるのですが、第4幕が始まった瞬間「「「「「「来た」」」」」って感じでした。怖い~~怖いよ~~。ここまでのキラキラした冒険と恋愛があったからこそ効くよ~~~~。このヤバい事件を覗くような感覚が、エンターテイメントって感じ! イアソンより遥かに強い力を持つメディア、計算高く行動力もあり豪胆な傑物。彼女がイアソンの他に自分を必要として身を寄せられる場所を見つけた時が、人生の分かれ道。強い、強いぞメディア。そうだお前はひとりの男に縛りつけられるような女ではない、ひとつの土地に縛られる女でもない! 世界にはばたけメディア!!

ただぁ~!

気軽に人を殺すのはちょっとやりすぎちゃうかなって思うねん……めっちゃ殺すやん……しかもなかなかのエグさやん……。今回のメディアの子殺しは「この子達が敵に殺されるくらいなら私が殺すしかないと決断して殺す」という殺人だったけど、前述したとおりこの劇は子ども目線なのでキッツいキッツい。

子どもの人数、この劇は3人説を取っていて、なおかつ殺されたのは2人、1人は逃げた、という結末。逃げた子どもは暗闇の中光を求めて東へ走っていく。冒頭の、月の中にいる子どもは2人、影で口数少なく座っている子が1人っていう意味がここで明かされる、1人で逃げたあの子は母に殺された兄弟と共に月の中にいられないし無邪気に歌も歌えない。希望と切なさの波状攻撃で胸が押しつぶされそうになって息するのを忘れました。

こんなメディアとイアソンと子どもの物語を! 2024年に浴びれるの! 本当に感謝!!

あとは、俳優がたった5人の劇でイアソンとメディア以外の3名の俳優=メディアとイアソンの子ども達が凄まじい勢いで兼役をしていたのが、ただただ鮮やか! 子ども達に導かれて夫婦の物語のリプライをしている皮肉! そしてヘラクレス良いキャラだったな……。ヘラクレスついてきてほしかったもんマジで。

時に船になり時に岩となるシルエットも素晴らしかったです。壺絵を眺めているような、その絵が動いているような。生でどんどん動いていく迫力。圧倒的に美しい瞬間がたくさんあった。

良かったな~~~~~~いや~~~~~良かったな~~~~~~~~!!

良かっただけにしばらく心えぐられたままやなこれ~~~~~~!!!!

はい。