
アポロン
ギリシア神話の理性担当。

ディオニュソス
ギリシア神話の狂乱担当。
「……」
「……」
あれから数時間後。
「……アポロン君、元気出しなよ」
「黙れオトコオンナ」
俺はまだ巫女装束の変装をしている。良かった、『オトコオンナ』と呼ばれたのだから、俺はアポロンの中で一応は男と認識されてるようだ。傷心の彼は何をしでかすかわからないから、あんまり女装の似合う俺を女と勘違いして襲ってくる可能性だってある。まあ襲ってきたらぷち倒すまでなんだけど。
「君の読みが浅すぎたんだよアポロン。自業自得さ」
「あンのクソガキ、騙しやがって……!」
「ヘルメス親分の趣味と特技が何なのかくらい友人なら察するべきなんだよ。馬鹿正直にホイホイ信じる君が悪い。第一、『ミレトス島の余命幾ばくの娘』本人がわざわざこんなギリシア本土の山奥のデルポイまで旅に来れると思う? ん? まずおかしいと思わない?」
「うーるーさーいー! 馬鹿にするなぁぁぁぁ……ああぁ……」
……『痛くもかゆくもない』んじゃなかったのだろうか。偉大なる予言の神は、薄暗くて狭い託宣部屋の真ん中の椅子の上で、トレードマークの帽子を取り三角座りして拗ねている。完全に凹んでいる。
「確かにスレンダーだった、スレンダー美女だった……んだろうなあ……昔は……!」
「気の強い元気なお婆さんだったねえ。如何にも『乳母ですッ』ていう雰囲気の」
「骨に皮がくっついたみたいなギョロ目のばーちゃんにどう食指を動かせばいいんだよ……」
「で、お嬢様の病を治したがる乳母様に、結局どんな神託を与えたんだっけぇ?」
「……『いい男との恋を大切にせよ』とだけ巫女の口を通して言ったら、あのババア、『やはりアポロン様はご存知でいらっしゃった! 最近良い縁談を持ちかけられたばっかりです故!』ってひとりで狂喜乱舞しやがってホクホク顔で帰っていきやがった……しかも、何が余命僅かだ不治の病だ、病は病でも、外反母子では人間は死なねーよ……! 確かに見た目不恰好でサンダル履いたら痛いから長旅はしたくはねえよなぁ、だからかわりに乳母をやって自分の不細工な足を治すにはどうすればいいのかとか良い外科医は知らんかとか、ふッッざけんなぁぁぁ! キェェェエッッ!」
「噂とヘルメスを鵜呑みにしちゃいけないよ。そして煩悩にまみれてる君が悪い」
「うわぁぁあん!」
「ドンマイアポロン。さ、焼き鳥でも食べにいこうよ。食欲と性欲は案外近いもんさ」
「お前、なんだかんだで結局自分の食事の話に持っていくな……! 奢らんぞ!」
「じゃあマイナデス呼んで肉調達してくるように」
「それはやめて下さい」

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